マルスS形端末について調べた話

記事タイトルにあるように、幻のマルスS形端末について調べた話です。

S形端末の簡単な特徴など

マルスS形端末というのは、マルス105世代にあった、現代でいうところの指定席券売機(MV)にあたるマルス端末らしい。指定券自動発売装置と呼ばれてもいた模様。

旅客が操作して指定券を購入できるマルス直結券売機だが、MVみたいに多機能ではなく、

  • 当日の新幹線列車のみ
  • 列車名固定
  • 列車番号*1は旅客がテンキーで入力・指定
  • 大人一人のみ
  • 乗降車駅は固定
  • 指定券はN形券と同様の様式

といった単機能なものだった模様。

指定席の発売状況(空席案内)を旅客向けに表示するP形端末(現代でいうMD形端末?)と合わせて用いられていたようです。

S形端末について調べたきっかけ

マルスについて国立国会図書館デジタルコレクションで文献を漁っていたところ、次の文献(以下、文献(1))にあたったのがきっかけ。

小川茂, マルスシステムの自動化端末装置

『JREA』, 19(5), 日本鉄道技術協会, 1976-05, p.15-18.
国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/3255966 (参照 2023-04-12)

この文献(1)内で、上記他の特徴や筐体の外形寸法図・外観図などが簡単に述べられている。

 

S形というマルス端末は聞いたことがなかったので、ツイッターで調べてみたところ、マルスシステムについて研究されているツムダフ氏のツイートがヒットした。

ツムダフ氏曰く、実用試験すら行われなかったとのことで実機の写真等はなさそうと思い、元々の調べ物に戻りました。

S形の実機写真を見つける

色々文献を見ていたところ、次の文献(文献(2))が見つかりました。

五十嵐善夫, 長谷川敦範, データ端末の変遷,

『鉄道通信 = Railway telecommunications & electronics』, 32(11), 鉄道通信協会, 1981-11, p.3-10.
国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2366201 (参照 2023-04-15)

この文献中に、

五十嵐善夫, 長谷川敦範, データ端末の変遷, 『鉄道通信 = Railway telecommunications & electronics』, 32(11), 鉄道通信協会, 1981-11, p.8.
国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2366201/1/6 (参照 2023-04-15)

なんと実物写真(文献(3) 写真―19)があるではないか!と。しかも、非商用の展示という感じではなく実際に運用中のところを撮ったような写真なので驚きました。

この写真から読み取れる(細かい文字は無理矢理なところもありますが)ことは、

  • 少なくとも2台以上稼働している(右端に見切れて、もう1台が見える)
  • 上部の看板(P形端末の隣)には、みどりの窓口のロゴだけのようなものと共に「新幹線指定特急料金 東京から新大阪 4,200円」と表示
  • 券売機上部の案内表示器は「本日分 ひかり号 指定席特急券 (普通車 おとな)」と表示

といったところ。

上の文献(1)で述べられてた特徴があり、かつ筐体デザインが外形寸法図によく似ていることを考えると、S形端末というので間違いなさそうと考えました。

S形端末使用開始に関する記事を発見

稼働中の写真があるということは、他にもS形端末について触れている文献があるのではないかと、あれこれキーワードを変えて探したところ、S形端末の使用開始についての記事(以下、文献(3))が見つかりました。

マルスS型端末使用開始

ニュース, 『鉄道通信 = Railway telecommunications & electronics』, 32(5), 鉄道通信協会, 1981-05, p.2.
国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2366196/1/3 (参照 2023-04-16)

何か(指定席発売状況のハズですが)が写っているCRTタイプのP形端末とS形端末の写真がしっかり掲載*2されていますが、本文の内容から重要そうな内容を掻い摘むと

  • 昭和56年(1981年)4月1日、S形端末の使用開始(当面の間試行)
  • P形端末も同時に使用開始
  • 設置場所は、東京駅 八重洲南口 新幹線発売窓口
  • マルスシステムに直結

とのこと。

文献(2)の写真は左手前から右方向を写している一方、文献(3)の写真は右手前から左方向を写している違いがあり、左側にも1台見える(筐体上部の看板が異なり、「~~~大阪の~~~」と書かれてる)ので、(少なくとも)3台で運用されていたのかもしれません*3

ほか、個人的に面白いと思ったのは、「オンライン端末であるから有線電気通信法の他人使用の制限を受けるため、郵政省と数回の打ち合わせ・検討の末、昭和55年度末日に承認」という記述でした。

ともあれ、(一時期のみであっても)実際に旅客向けに稼働してたのは事実なようです。

いつまでS形端末が使われたのか?

S形端末がいつまで使われたのか(≒端末撤去日)は分かりませんが、マルス301システムの構成図*4*5にS形が書かれていない*6ことを踏まえるに、マルス301の稼働開始前*7には撤去されていそうに思います。

少なくとも、文献(2)中では「撤去された」とは書かれていないので、文献(2)の出版時点(1981年11月)では現役稼働中だったと思われます。
また、1982年10月出版のマルス301構想についての文献*8の全体構成図にはP形と共にS形が描かれています。

まとめ

  • マルスS形端末は実運用されていた(1981年4月1日から東京駅で)
  • 現代のMVとは異なり単機能
  • 遅くともマルス301稼働開始までには運用終了していそう

といったことが、国立国会図書館デジタルコレクションの個人送信サービスで閲覧可能な範囲内で分かりました。

国立国会図書館デジタルコレクションでは、個人送信サービスで閲覧可能な古い文献が多く、かつOCRされていて全文検索も可能な事が多いので、とても有用だなと感じます。

余談

余談1: 一旦、本記事を書いてから(2023年4月頃)、下書き状態で半年ほどほったらかしてました。

余談2: このS形端末、乗車券(指定券と同一の東京都区内→大阪市内)も発売出来たのかは気になるところ(各文献を見た感じでは無理そう)。

余談3: 文献(1)の外観図では、「ひかり号普通車指定席 東京→新大阪」が2,700円と描かれてて、これは当時(1976年5月)の発売額と同額(1975年11月20日改定)。
また、文献(2), (3)中の写真では東海道新幹線 東京~新大阪間の指定席特急料金が4,200円と表示されてますが、S形端末使用開始と同月中の1981年4月20日には4,600円に値上げされたようです*9

余談4: 空席案内用のマルスP形端末は、国鉄時代の東北・上越新幹線開業時点の大宮駅か上野駅にも設置されていたというような内容の文献を見た覚えがあります(文献名は忘れた)。

*1:ひかりN号などのNの号数

*2:サイズは小さいものの文献(2)に比べて露出が明るめ。写真左下をよく見ると、「81 4 1」と日付差し込みが入ってる

*3:(文献(3)にも書かれてる)乗車券ないし自由席特急券の自動発売装置が、S形端末と似た筐体でなければ

*4:文献(4): 槻木公一, マルス301システムの完成とその後の発展, 『交通技術』, 41(6)(510), 交通協力会, 1986-06, p.28-31.
国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2248209/1/16 (参照 2023-04-16)

*5:文献(5): 雪浦和雄, (情報システムだより)新しいマルスシステムについて, 『国有鉄道』, 43(3)(429),交通協力会,1985-03, p.26-27.
国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2276877/1/15 (参照 2023-04-16)

*6:P形は残っている

*7:1985年3月1日

*8:文献(6): 長谷川洋太郎, 旅客販売総合システム(マルス301)の全体構想, 『鉄道通信 = Railway telecommunications & electronics』33(10), 鉄道通信協会, 1982-10.
国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2366212/1/9 (参照 2023-10-12)

*9:東海道・山陽・九州・西九州新幹線料金変遷 | 時刻表の達人, https://jikokuhyo.train-times.net/data/shinkansen_fare